1. コムギにおける発現遺伝子の網羅的解析

 パンコムギを材料にして、発現遺伝子を体系的・網羅的に解析しています(トランスクリプトーム解析といいます)。パンコムギは異なる3種類のゲノム(A, B, Dゲノムと名付けられています)が核内に存在する異質6倍体です。これらの3セットある遺伝子のどのゲノムからのものが選択的に、または、任意に発現しているのでしょうか?

  この疑問に答えるために、まず大量にESTを解析しました。コムギの生活環の代表的な10組織からRNAを抽出し、部分配列(ESTといいます)を大量に決定しました。これらの塩基配列をバイオインフォマティクス的に整列化して、それぞれの同祖遺伝子にグルーピングする方法を確立しました。これらの同祖遺伝子同士をさらに同じ遺伝子グループにグルーピングしてみると、予想遺伝子の約半分が含まれていました。
 
  これらのどの遺伝子がどの組織で、どれくらい発現しているかをコンピューター上でトレースできるように可視化しました(Virtual Displayと呼んでいます)。これらの遺伝子のうち、比較的発現量の多いものを選んでA, B, Dのどの染色体領域から転写されたかを解析してみました。すると、約46%の遺伝子が、3種ゲノムのうち、1種類からのみ転写されていることが明らかになりました(6倍体の遺伝子すべてが使われているわけではない!)。3種ゲノムのうち、2種類から転写されている(1種類のゲノムの遺伝子は常にサイレント)ものは約25%、3種類とも発現されているものは約20%でした。また、これらの遺伝子は染色体上の様々な領域に分散していました。これらの遺伝子発現制御の分子機構の研究を、現在進めています。